彼氏がいなくなった


「俺の母親、鬱病でさ」



 風が吹いた。

 青い空は高く、見上げたら吸い込まれてしまいそう。


「わりかし重度の。父親出てってからどうやら発症してたっぽくて、俺が気付いた時にはもう割と手遅れ。

 一人で鬱ぎ込むんならまだしも、被害妄想って言うの?酷くてさ。夜中に言うんだよ。やれ誰それが来た、やれあいつが襲いに来たとか、誰もいない場所見て怯えてるわけ。もうホラーよ」

「…」

「常人の俺からしたら母さんはいつからかキチガイの部類に当てはまっちゃった。俺はそれを救いたかったけど、でも漫画の主人公みたく上手くいかないのが実情」



 どう、引いた?

 息継ぎ無しのマシンガントークの末、ベンチの背もたれに頭を預ける日野は笑った。だから私もそんな日野を横目に、鼻で笑ってみせた。






「何それウケる」

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