彼氏がいなくなった
「いいお天気ねえ」
「うん」
「お空が綺麗ねえ」
「悲しいことがあるとこの町の空は人一倍綺麗に映るんだよ」
「あらそう」
「って日野が言ってた」
「ふふ」
「でも日野の言うことはアテにならない」
チョコバットを食べ尽くし包み紙をくしゃりと握りつぶす。足をパタつかせて、平日の朝にこんなことをする人は他にはちっとも見当たらない。
通勤通学時間すら越えているからか人影もまばらで、じゃあそこを行き交う人はどこに向かうんだろうとぼんやりと考えた。
いと婆はしわしわの手を腰に当てて、丸めた背中でもう一度いいお天気ねえと呟くから、私も黙って頷いた。
雲ひとつない冬の青空にはまぬけな太陽だけがひとり、さみしそうにぽっかりと浮かんでいる。
❄︎
日野は新聞配達のアルバイトをしていた。
毎朝毎朝、学校に来る前に原付で自分の担当のエリアに新聞を届けるそれは聞くところによるとハードだったらしい。
夏の朝は太陽が早くに仕事をするけど、冬は怠慢で夜が長いから困るんだと、誰より早く学校に着いて貴重な学生の朝休みを睡眠にあてていた日野は、しかし私の末端冷え性攻撃で朝を迎えることとなる。