彼氏がいなくなった
「おはよう旦那」
「ゔっ!」
末端冷え性攻撃とは、文字通り手足の冷たい私が容赦なく日野の首に手を当てて現実に引き戻すそれである。
冬場になると学ランの下にパーカーを着ている日野、その背中に一気に手を突っ込んでやると前に女の子みたいな悲鳴をあげたので、こっぴどく叱られてそれ以降は首に当てるようになった。
「多香」
「お眠なのかえ」
「激ねむ。三途の河渡りかけた」
「そりゃ良かった」
あたたかい日野の手は、私の冷たい手をぎゅっと握るとそれきり適当に追い払う。私もそれ以降は触れず、代わりに日野の隣の席のクラスメイトAの机に座って足でげしげししていると、やめてそれといなされる。
そんな毎日だった。他のバイトを掛け持ちしていたのかどうかはよく知らない。ただ週に2回は必ず昼登校という、重役出勤を果たす日野は昼休みあくびまじりにやってきて、私の席の後ろに座って
それから必ず私のポニーテールを弄ぶ。
「馬のしっぽ」
「それがポニーテール」
「ふふ」
「ふふじゃなくてやめれ。くすぐったい」
「多香の毛はあれだな」
「うん」
「馬っつーか蜘蛛の糸」