君と二人の201号室
拓海さんの言ってることはわかるけど、それでもやっぱり…自分が迷惑かけると思うと…。そんな簡単な話じゃない。
…ましてや、本当の家族じゃないのに。
私のお母さんやお父さんが、こんな風に優しかったら、私は甘えられてたのかな。
…今さら、会えるなんて思わないし、そんなに会いたくもないけど。
…あぁ、ダメだな。
あの人たちのこと考えてると、こんなにも優しい人たちに囲まれているのに、何も見えなくなって、醜いことばかり思っちゃう。
こんな汚い、自分が嫌だ。
「菜帆?どした?」
「…あ、なんでもないです…」
「噓つくのはよくないよ。ほら、『家族』のリハビリ。するって決めたんでしょ?」
優しく咎めるような物言いに、私は嬉しさと同時に気まずさを覚えた。
みんなに真っ直ぐに見られてるから、どうにも緊張してしまう。
「……あの人たちを許せない私って…心が狭い、醜い人間なんでしょうか…?」
…きっとこの人たちは「そんなことないよ」って言う。
わかってるのに、わざわざ聞くなんて、私はズルい奴だ。
こんな言葉が口から出たのは、きっと心のどこかで、誰かに否定してほしいと思ってるからだと思う。
「…そうかもね」
拓海さんの口から出たのは、私が欲していた言葉とは真逆のものだった。
内心ものすごく落胆したから、やっぱり私は心のどこかで否定の言葉を求めていたんだ…と、さらに自分を醜く感じて嫌になった。
「ちょっと、拓海…!」
瞳さんが、焦ったように言う。
今にも拓海さんに掴みかかりそうだ。
「いいんです。…私もそう思いますから」
自分の気持ちとは、反対のことを言う。
…困ったような笑みを、わざと浮かべながら。