君と二人の201号室
「菜帆、うそつき。それにまだ、話は終わってないよ。ちゃんと聞いて」
「…はい」
今まで当たり前のように使っていた対処法は、いとも簡単に見破られた。
…おかしいな。
それに、安心してるなんて。
「…そうかもね…っていうのは、そう思う人がいてもおかしくないってことだよ。でも、俺は菜帆の性格とか知ってる…つもりだから、そうは思わない。別に、許せないことがあったっていいんだよ。だってそんなの、仕方ないし」
…一番欲しかった言葉より欲しい言葉をもらった気がした。
胸にストンと落ちてきた。
心にあった鉛が、スウッと消えていくような気がした。
怒ってはないけど…許せない。
そんな気持ちを許してもらえて、嬉しい。
「仕方ない」って言葉は、多少投げやりに聞こえるかもしれないけど、拓海さんの、この「仕方ない」は、そんなことじゃなくて…もっと深い何かだと思う。安易な「仕方ない」は、人をイラッとさせるけど、そんな軽率な意味で言ったんじゃないと思う。
「菜帆。菜帆はもっと、甘えてごらん。怒ってごらん。泣いてごらん。笑ってごらん。それだけで俺は、嬉しいから」
「…はい」
「あ、ズルい!私だって嬉しいからね!むしろ私の方が嬉しい!」
「…俺が負けるわけないだろ」
…もうちょっと喜びに浸っていてもよかったんだけど、そんな空気も瞳さんによってすぐにぶち壊される。
…それもそれで、「らしいな」なんて。
さっきまで悩んでたのが、何だか馬鹿みたいだ。
姉弟二人の言い合いを横に、拓海さんたちのご両親は安心したように微笑んでいる。
そして、私の方を向いて優しげに笑ってくれた。
それから、口パクで「よかったね」「大丈夫だよ」…って言ってくれた。
「ふふ~。じゃあ、おせち作ったから食べましょう。克己くん、ちょっと手伝って」
「はいはい」
拓海さんのご両親は、おせち料理の用意をするらしい。
…お母さんの手作り…。すごすぎる。