君と二人の201号室
…かと思いきや、今度は言い合いを終わらせたらしい拓海さんが、私の方を向いて聞いてきた。
「…とりあえず、今思いついたお願い、言ってごらん?」
「え…?」
…聞いてない。
それに、相変わらず唐突すぎる。
お願い…。
…。
…。
…。
「…ちょっと、恥ずかしいんですけど…」
「うん」
「その…ギュッってしてほしいです…」
…こんなこと思うのは多分、私なりに一番愛情を感じる行動だから。
小さい頃、妹ばかり抱っこされてたから。…寂しかった。
ギュッってしてもらえるのは、すごい好き。
だから…。
「…途中で離してって言われても、離せないかもしれないよ?」
「…それでもいいから…!」
「なんか菜帆、積極的だね。…後悔しても、知らないよ?」
意地悪そうな口調とは裏腹に、とても優しく抱きしめられる。
まるで、宝物を包み込むみたいに。…なんて、とんだ自意識過剰だ。
…あぁ、あったかい。
ギュッってされるのは、人の体温を感じられる。
もちろん、他にも体温を感じられることはあるんだろうけど。
全身で、相手のぬくもりを感じられる。
相手の、匂いに包まれる。
…大好きな人の、ぬくもり。
…大好きな人の、匂い。
――好きです、拓海さん。大好きです。
いつのまにか、こんなにも、拓海さんは私の世界の中心地にいる。