君と二人の201号室





エレベーターなんて、乗ったのは久しぶりだった。

…そっか、エレベーターって密室だ。と、ふと思い出した。

密室に、しかもエレベーターだから狭い…かろうじて、一辺1.5mあるかないかぐらいの空間に…二人きり。

拓海さんは、さっきまで暗い中歩いてたから忘れてたけど、今こうしてエレベーターの中は明るいので嫌と言っても顔が見えて、それはそれは整っている顔立ちだから、無駄にドキドキしてしまう。


…今さらだけど、この人と同居するんだな。

エレベーターで二人きり…って、これから暮らすのにそんなことも駄目だったら、この先やっていけないでしょ。



――チン



「あ、着いた。まぁ、二階だからすぐ着くか」

「降りるんですか?」

「うん、ここ」

「何号室なんですか?」

「201号室だよ」



そんな会話をしながら歩き、私の前を歩いていた拓海さんが止まったのは、『201』と書かれた金属の板がくっついている扉の前。

…おぉ、これがマンション。めっちゃ綺麗。…今まで住んでたところが異常なほど汚かった&ボロかったのもあるんだろうけど。今までとの格差がすごい。何だか緊張してしまう。



――ガチャ



「鍵、開いたよ。入って」

「…お邪魔します……」

「お邪魔します…じゃなくて、ただいま…でしょ」

「あ、うん…。…ただいま…!です」



…「ただいま」なんて口にしたのはいつぶりだろうか。

いつも、「おかえり」と返してくれる人がいなくて、空っぽの部屋に「ただいま」なんて言っても虚しくなるだけだったから、しばらく言えてなかった。



「おかえり。俺も、ただいま」

「おかえりなさい…!」



「ただいま」と「おかえり」に浮かれて、少し声が大きくなった気がする。もう夜中の3時だというのに。久しぶりに聞いて、思う。「ただいま」と「おかえり」って、くすぐったいけど、心がポカポカしてくるんだなぁ…と。まるで、魔法の言葉みたいだ。



「…新婚さんみたいだね」

「え!?」



『新婚さん』というワードには驚いたけど、私は嬉しくなった。私も、夫婦…とまではいかないけど、何だか家族みたいで幸せだったからだ。



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