君と二人の201号室
「じゃあ、いつにする?」
「うーん……なるべく早くに一回練習してみた方がいいかも。そしたら、もし中々上手にできなくても、いっぱい練習できるし」
「そっか。なら、今週末の土曜日は?」
「いいかも」
二人はあまり予定がないらしく、バイト漬けの私に予定を合わせてくれることが多い。…ありがたい。
だからそのためにも、誠心誠意チョコ作りを教えなきゃ……!
「で、菜帆んちでいい?」
「へ?うち?」
「同棲中の菜帆の彼氏も見たいし」
「……や、聞いてみないとわかんないし…」
「聞いて!今すぐ!」
「…噓でしょ?」
……強引すぎやしませんか、お二人さん。
さすがの私も、ちょっと顔が引きつりそうだ。
…でも、もしかしたら最初から……
「ねぇ菜帆、はーやーくー」
――この無邪気な笑顔を、もう少し信じてみてもよかったのかもしれない。
「ん?菜帆、見たことないビミョーな顔してる…?」
「あ、ほんとだ」
やっぱり上手くできなかった、作り笑い。
バレちゃったなら仕方ないや。
「…拓海さん、仕事中かもしれないし。少し強引すぎだよ、二人とも」
「あはは、ですよねー」
私の気にしていることは、案外小さいことなのかもしれない。
…信じてみても、よかった。
一人で小さな喜びに浸っていて、その喜びが自分たちによるものなんだということを、きっと二人は知らない。
「菜帆、何笑ってるの?」
「…なんでもない」
全然なんでもなくないし、言っても構わないんだけど…。
あえて秘密にしたまま、私は二人の間を歩いた。