君と二人の201号室
二人とも中へ入り、大きな音を立てて重そうな扉が閉まった。すると、暗闇が広がり、何も見えなくなった。
――パチン
…と、急に音がした。それは、拓海さんが玄関の壁についた電気のスイッチを押した音だった。
暗かった部屋が、途端に明るくなる。こんな時間なのに、目が冴えそうだ。
「お風呂とか入る?…って、下着とか無いか」
「家にあるから…このまま寝る…ってことでも、いいですか?」
「…いいけど、ここではダメ。向こうの部屋にベッドあるから、そこに寝て。あと、そのままの服装じゃ寝づらいだろうから、俺の部屋着、ぶかぶかだろうけど貸すから」
「そんな…!どっちも悪いです…」
「悪くない悪くない。明日ちょうど土曜日だから、学校休みでしょ。ゆっくり休みな。ごはんは大丈夫だから。それでも、どうしても嫌って言うなら、菜帆のことを抱き枕にして、俺がベッドで寝るから。それが嫌なら、一人でベッドで寝なさい」
「…はい」
何だか、上手くまるめ込まれた気がする…。
というか、どっちにしろ私はベッドで寝るんじゃ…と思ったけど、口には出さなかった。
…お母さんとかいたら、こんな感じなのかな…。
世の私くらいの年の子たちは、お母さんが口うるさくなって面倒くさくなる…らしいけど、もし、今の拓海さんみたいな感じだったら、ただ単に世話焼きなだけだと思う。ありがたいけど…申し訳なくなるような。…って、お母さんにそんなことは思わないか、普通。
何にしろ、拓海さんの方が一枚上手のようだ…と悟った瞬間だった。
そもそも、玄関先でこんな話はいかがなものか。…まぁ、いっか。一々気にしてられない。そう思いながら、私は靴を脱いだ。
「あ、菜帆も靴をきちんと揃えるタイプなんだ。同じ同じ」
「タイプって…。揃えるものじゃないんですか…?」
「菜帆さん。世の中には色んな人がいるんですよ」
「そうですか」
「あからさまにつまんなそうな返事しないでくださ~い」
「は~い」