君と二人の201号室


――拓海さん、お願い。出てください…!



『留守番電話サービスに接続します』



こんなときに、頼みの綱はつかまらないものなんだなぁ…と、しばらく思った。

もう既に、買い物に行くどころではなくなっていた。

かといって、家の前にまたあの人がいたら困るから、帰る気にもなれなかった。


…どうしよう。

こんなときに限って、何もすることがない。

することがないから、どうしても暗いことを考えてしまう。


私の中のモヤモヤがグルグルグルグルしながら、頭の片隅では、何か『すること』を探してる。

だけど、そんなものは中々見つからなかったから、ぶらぶら歩いて景色を見て気を紛らわすことにした。


しばらく歩いていると、小さい公園があった。


…誰もいない。


歩いていたら喉が渇いたから、公園の水を飲む。


…そういえばここ、どこだろう。

闇雲に歩いてたから、道なんて覚えてなかった。


スマホの時計を見ると、午後5時半。

あぁ、どうりで薄暗くなるはずだ。


もうすぐ、拓海さんの仕事が終わる時間だなぁ…。

でも、晩ごはんまだ作ってないから、拓海さんの今日の晩ごはんは外食か、インスタント食品になるんだろうなぁ。ごめんなさい、拓海さん。


公園の水じゃ、何だか今の私には物足りなさを感じさせたから、近くにあった自動販売機に吸い寄せられるように近づく。

いつもなら、「自販機の飲み物は高いから」っていって、スーパーで買った飲み物か水道水とか、お茶作ったりコーヒー作ったりして飲んでるのに。

変だ。

こういうときって、いつもと違うものに魅力を感じたりするものなのだろうか。


…それにしても、こんなときでも喉は渇くんだなぁ…。

なんて、変なところに感心してしまう。


…きっと、そんなことでも考えていないと、嫌なことを考えてしまうから。


あぁ、今日は野宿かな…。ま、それもそれでいいけど。

そんな、前の私だったら「よくないでしょ!」と自分で突っ込んでそうなことも思う。



< 126 / 170 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop