君と二人の201号室





しばらくして、瞳さんの予告通り拓海さんがやって来た。

その姿が見えた瞬間、私はらしくもなく走り出していて。

拓海さんはものすごく驚いてた。


走った勢いのまま、ここがどこなのかも忘れて、拓海さんに抱きついていた。



「な、菜帆…?…大丈夫?」



愛しい人の優しい声が聞こえたことにさらに安心して、私は拓海さんの背中にまわした腕にまた力を込める。


…いつもと同じくらいか少しだけ遅い時間なのに、怖いくらい長く感じた。

それくらい、恋しかった。拓海さんが。



「ごめんなさい…。あんまりだいじょばないです…」

「ん、そっか。じゃあ、もっとこっちにおいで。ギュッってしてあげるから」

「…はい」



拓海さんに抱きしめてもらえるのは、落ち着く。

魔法の薬みたいに、スーッと気持ちが元通りになってく。


…おかしい。

こんなのまるで、子供みたいじゃないか。

そんな時間、私は捨ててきたはずなのに。



「よしよし」

「子供じゃないです…」



頭を撫でられて。

背中をさすられて。

…やっぱりどうしたって、駄々をこねてる子供みたい。



「子供だよ、菜帆は。甘えなきゃダメなの」

「でも、私がちゃんとしなきゃ…」

「ちゃんとしてない菜帆だって、俺は好きだよ。っていうか、どんな菜帆でも大好きだよ」



〝どんな私でも好き〟

…きっと私は、お母さんにそう言ってほしかったんだと思う。


だけど、私の中で、さっきの申し訳なさそうにしてるお母さんと、「あんたが死ねばよかったのに」と言ってたお母さんの姿がこんがらがってしまって、本当はどうしたらいいのか…ってことがわからないし、もしかしたら考えたくないのかもしれない。




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