君と二人の201号室
*
しばらくして、瞳さんの予告通り拓海さんがやって来た。
その姿が見えた瞬間、私はらしくもなく走り出していて。
拓海さんはものすごく驚いてた。
走った勢いのまま、ここがどこなのかも忘れて、拓海さんに抱きついていた。
「な、菜帆…?…大丈夫?」
愛しい人の優しい声が聞こえたことにさらに安心して、私は拓海さんの背中にまわした腕にまた力を込める。
…いつもと同じくらいか少しだけ遅い時間なのに、怖いくらい長く感じた。
それくらい、恋しかった。拓海さんが。
「ごめんなさい…。あんまりだいじょばないです…」
「ん、そっか。じゃあ、もっとこっちにおいで。ギュッってしてあげるから」
「…はい」
拓海さんに抱きしめてもらえるのは、落ち着く。
魔法の薬みたいに、スーッと気持ちが元通りになってく。
…おかしい。
こんなのまるで、子供みたいじゃないか。
そんな時間、私は捨ててきたはずなのに。
「よしよし」
「子供じゃないです…」
頭を撫でられて。
背中をさすられて。
…やっぱりどうしたって、駄々をこねてる子供みたい。
「子供だよ、菜帆は。甘えなきゃダメなの」
「でも、私がちゃんとしなきゃ…」
「ちゃんとしてない菜帆だって、俺は好きだよ。っていうか、どんな菜帆でも大好きだよ」
〝どんな私でも好き〟
…きっと私は、お母さんにそう言ってほしかったんだと思う。
だけど、私の中で、さっきの申し訳なさそうにしてるお母さんと、「あんたが死ねばよかったのに」と言ってたお母さんの姿がこんがらがってしまって、本当はどうしたらいいのか…ってことがわからないし、もしかしたら考えたくないのかもしれない。