君と二人の201号室
「――ふ…ぁ…」
「ごめん菜帆。でも、菜帆が可愛すぎるのも悪いんだからね?」
「…そ、ですか…」
苦しい息と収まらないドキドキに気を取られて、もう何を言われてたのか、あんまりわかってなかった。
…冷静になって後々思い返すと、とんでもないことを言われたんだと自覚するのだけど、それはもうちょい後のこと。
「あぁ、菜帆が高校生じゃなかったら、あんなことやこんなことを毎日でもしたいのに……菜帆に引かれない程度に」
「…すでにちょっと、『うわぁ…』って思いました…」
さっきのドキドキした空気、どこに行ったんですか。
すっかりいつもの拓海さんになって、安心したような残念なような。
「『うわぁ…』って、それは酷くない?」
「ちょっとだけですよ、ちょっとだけ」
「それでもさー」
子供の駄々みたいに文句を言ってくる拓海さんを軽く流して、私は部屋の奥の方へ行く。
…さっきまで玄関だったのか。なんてことしてるんだ、拓海さんも私も。宅配便とか来たら(頼んだものがあるのかは知らないが)、どうするつもりだった…って、そんなこと考える余裕なんてなかったなぁ…あの時は。
後ろから小走りでついてくる拓海さんを気にしてないフリをして、意味もなくテレビをつけた。
「で、菜帆。覗いたりしないから、お風呂入っちゃえば?」
「…それは、フラグですか」
「いや、フラグでいいならフラグにするけど」
「いえ、丁重にお断りさせていただきます」
「釣れないなぁ」
…拓海さん、それは間違ってます。
とっくに拓海さんに釣られてて、今じゃあ、拓海さんがいないと困るくらいなんですから。
…そんなの、地球がひっくり返っても言えないけど。