君と二人の201号室
「私ね、今まで、カウンセリングなんかを受けて、だんだん普通の状態になってきたの。いつからおかしかったのかは、自分でもわからない。だけど、しっかり回復してきてるって、先生が仰ってて」
「…それは、よかったです」
さっきまでの話が本当なのかはわからないけど、本当だったらいいな…とは思えた。
だってそれなら、お母さんは私のこと、少しは考えてくれてたってことだと思うから。
「自分で働いて、お金も稼げるようになって。やっと少し、〝普通の人間〟になってきたんじゃないか…って、自分でも思えて。そしたら、菜帆に会いに行く資格、少しは持てたんじゃないか…って」
「……バカじゃないですか?」
「ごめんなさい、資格なんて、あるはずないのにね」
「……さみしかった」
小学校のとき、授業参観に来ていたクラスメイトの親たち。
私のところには、誰も来てくれやしなかった。
平気だ、大丈夫だ……なんて振る舞ってたけど、ほんとはすごく、さみしかった。
「お母さんなんて、代えようと思っても代えられないのに、あなたしかいないのに、資格とか本当はどうでもよくて、せめて生きてるかどうかだけでも知りたかった…」
「菜帆、ほら、ハンカチ」
お母さんよりも先に泣き出してしまった私に、拓海さんがハンカチを差し出してくれる。
私はそれを受け取って、涙を拭いた。
「菜帆、ありがとう…」
「……お父さんは、どうしてますか」
「……っ!それね…」
「もしかして、いないとか?」
「一か月前から入院してる」
「……へ?」
お母さんの言葉に、ただただ固まる私と拓海さん。
今、なんて?