君と二人の201号室


そのとき、自分の会社が危なかったんです。

イライラしてました。でも、二人にあたってはいけないと思い、必死に仕事を頑張りました。

でも、お母さんは、俺の知らないところで、菜帆を傷つけていたんですね。

俺も母さんに、「こんなときに、あなたは仕事ばっかり」と言われてしまいました。でも、それは事実です。言われても仕方なかったのです。


端的に言うと、その後会社が潰れました。

同時に、俺の精神も壊れました。こらえていた何かが、一気に溢れてしまいました。


そして、起業なんかよりも、もっともっとやってはいけないことをしてしまいました。

…菜帆を傷つけることです。


大人の男が、まだ小学生になったばかりの娘を、殴ったり蹴ったりしていました。

…我ながら、本当に救いようのないクズですね。


最初は、感情に任せて菜帆を傷つけていました。

菜帆はあのとき、本当に泣かない子でした。


今考えると、本当に恐ろしいことです。小さな子供が、あれだけのことをされても泣かないなんて。

だけど、あのときの俺は、それをいいことに、菜帆を殴り続けました。


…菜帆の体には、もしかしたら傷痕が残っているかもしれません。女の子なのに。


だけど、泣かない菜帆を見ていくうちに、何があっても笑わないことにも気がつきました。

無表情で、日に日に自分がつけた傷が増えていく菜帆を見て、だんだん怖くなりました。やめなくてはいけない、と思いました。

だけど、自分の力ではどうにもできませんでした。


これは、菜帆から離れて何年か経ったときに母さんに聞いたのですが、母さんも当時、感情のコントロールができなかったようです。俺も同じ状態でした。

…夫婦とは恐ろしいものですね。冗談です、ごめんなさい。




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