君と二人の201号室
「何なら、一台あげようか?持て余してるし」
「そんな!?悪いです…」
「いいのいいの。もしかしなくても、菜帆ちゃん、ワケありでしょ?ありがたく思ってもらえたらそれで嬉しいから。もらっちゃって」
ワケあり、か…。ううん、とりあえず今は考えないでおこう。
自転車…そこまで言うなら、もらっとこうかな。あると、色々便利だし。移動時間の短縮にもなるし。
「…ありがとう、ございます…」
「いいんだって。それよりも菜帆ちゃん、何かあったら相談してね?八代くんのことでも……他のことでも。人間、吐き出さないと壊れるからね」
…この人は、特別な目でも持ってるのだろうか。
「八代くんは…薄々気付いてるのかもしれないけど、存在が近すぎて、彼にはなかなか話せないでしょ?私は、そんなに近くもないし、何より豊富だからね。人生経験。だから、話したくなったら話してごらん」
「…あり…がと…ござい…ます…」
私の目からは、涙が零れていた。
何でだろう。泣くつもりなんてなかったのに。
「よしよし。いっぱい泣きな」
そんな私を、菅谷さんは、まるで母親かのようにあやしてくれている。
「多恵子…さん…」
「どうした~?菜帆」
「ありがとうございます…」
「泣き止んだ?」
「…はい」
気付けば、あんなにも溢れてきた涙は止まっていた。
「なら、行きな。この自転車持って。八代くんが待ってるよ」
「そうですね。待ちくたびれてるかも」
私は目の周りについていた涙を拭い、もらった自転車を押しながら、拓海さんのところへ向かおうとした。
菅谷さんに背を向けて、そのまま乗って行こうとする寸前に、振り返って菅谷さんにお辞儀をすると、菅谷さんは頼もしい笑顔とガッツポーズで、私を見送ってくれた。