君と二人の201号室
「拓海さん、私これからバイト行かなきゃいけないので、冷蔵庫に野菜とか仕舞うの、手伝ってくれませんか?」
「もちろんまかせて。あ、俺も菜帆のバイト先行っていい?」
「…いや、それは…恥ずかしいです」
「そっか」
うぅっ…すみません。
心の中で謝っておく。
「本当はバイトなんて行ってほしくないんだけどなぁ。できることなら、1分1秒たりとも離れたくない」
「…そんなこと言われても…」
私と拓海さんは、冷蔵庫に買ってきたものを仕舞いながら、そんな話をする。
…「人を好きになる」って、こんな感じなの?
違うよね。絶対に違うよね。
私の感覚がおかしいわけじゃないよね。
「菜帆、全部入れ終わったよ」
「ありがとうございます!じゃあ、行ってきますね」
「…バイトに?」
「そうですけど…」
「…いってらっしゃい」
いや、そんな寂しそうな眼で見られても…。
すみません!仕事大事なので!行かせてもらいます!
そう思い、私は玄関へ行き、急いで靴を履いて部屋を出た。
…あ、傘も持たなきゃ。と、私は一歩下がる。
「拓海さーん、傘借りますねー!」
「わかったよー」
部屋のドアを閉め、私は1階へ降りようとする。
1階に降りるのに、どうしても階段を使ってしまう。癖なのだから仕方ない。
「お、菜帆」
「あ、菅谷さん」
「また出掛けるの?」
「はい。これからバイトなんです」
「頑張りな」
「ありがとうございます。いってきます!」
「いってらっしゃい」
菅谷さんの笑顔にも見送られ、私は急いでバイト先へ向かった。