君と二人の201号室
「よし、じゃあ菜帆、帰ろう。そして存分にイチャイチャしよう」
「…拓海さん、『手出さない』って言ってませんでしたっけ?」
「ハグは手出したうちに入らないよ、菜帆」
「…誰が決めたんですか…」
ぶっ飛んでる拓海さん、未だに絶好調です。
「とりあえず、菜帆ちゃん、着替えてきたら?」
「…そうですね」
エプロン、取らないと。
エプロンを脱ぎながら、私は店の奥へ向かう。
歩きながら脱いだエプロンをたたみ、棚へしまう。
そして、荷物を取って元の場所に戻ると…。
――気まずい空気が流れている(気がする)。
何があったんですか、二人とも。
「あ、菜帆。おかえり。帰る準備できた?」
「…あ、はい!バッチリです!」
「うん、じゃあ帰ろう。…店長さん、さようなら」
「あぁ。菜帆ちゃんもまたね」
「あ、はい。お疲れ様でした~」
二人が、何もなかったかのように振る舞うので、きっと聞いちゃいけない話をしてたんだと思い、私は深く追及しようとは思わなかった。
「菜帆、傘ある?」
「…ありますよ」
「相合傘しよう」
「…なんでですか…」
拓海さん、傘あるでしょ。
来た時、持ってましたよね?
「やりたいから!」
…理由は、とてもシンプルだ。
けど。
「…ムリです…」
「なんで?」
言いたくない…。