君と二人の201号室
拓海さんのことをつねるとか…想像もできないし、したくない。
その動機がなんであれ。
「仕方ないなぁ。自分でやるか。本当は菜帆に触れてもらえるの、楽しみにしてたのになぁ」
…いや、なんですか、それ。
……。
「!な、菜帆!きゅ、急にどうしたの!?」
「…手を、繋いでみただけです…」
…拓海さんが、「触れられるの楽しみ」なんて言ってたから。
手をギュッと握ってみる。ありったけの勇気を絞り出して。
「嫌じゃないの?」
「恥ずかしさで死にそうですけど……嫌じゃないです。むしろ…」
そこまで言いかけて、私は「しまった」と思い、口を閉じる。
むしろ…『手を繋げて嬉しい』なんて。何言おうとしてるんだ、私。
危なかった…。
「『むしろ…』なに?」
「いや、別に大したことじゃ…」
「ないんだったら言えるよね?」
「うっ…」
「教えて、菜帆」
そんな甘えたような声で、しかも耳元で囁いてくるんだから、拓海さんは随分とタチが悪い。
スルスルと、思ってたことを出してしまう。
「て…を、つなげて、うれしいなぁ…って…」
俯きながらそう答えると、繋いでいた手は離され、同時に抱きしめられる。
…拓海さんの香りに包まれて、心地いい。
拓海さんに抱きしめられるのは、結構好きだ。
「可愛い。煽ってるの?菜帆。ズルすぎるよ」
…大抵の場合ズルいのは、拓海さんだと思う。
私がドキドキすることを、不意打ちで平然とやってのけて。
私の心臓が、いつもいつも壊れそうなこと、拓海さんは知らないでしょ。