君と二人の201号室
「あ、の…拓海さん、早く帰りましょう…。寒いですし…」
いや、今は抱きしめられてるから、そんなに寒くはないんだけど。
…冬の雨は辛い。これからもっと寒くなるだろう。
「そうだね、早く帰らないとね。でも、これも惜しいし…」
「そんなの、帰ってもいっぱいできるじゃないですか…」
あ、しまった。墓穴掘った。
拓海さんの目が輝き出す。
「それは、帰ってもやってくれるという解釈で間違いないね!うん、帰ったら離さないから、それまで我慢するね。褒めてね、菜帆」
…自由すぎる…。
『褒めて』だなんて、なんだか小さい子供みたいで可愛く感じてしまう。…なんだか愛おしく感じる。
「…わかりました。だから、早く帰りましょう?」
「手出して、手。繋ごう」
「…いいですけど」
なんだか照れくさいので、少し素っ気ない返事になってしまった。
拓海さんは、そんな私を見てニコニコしている。なぜ。
「コンビニで菜帆を見てた時は、こんなことできるなんて思いもしなかったなぁ」
…私だって、そうですよ。
そもそも、見知らぬ人に告白されるところから、思いもしませんでした。
…と、心の中で呟く。
「…そうですか」
さすがに全部口にするのはいいかな、と思ったので、それだけ言った。
私と拓海さんは、相合傘をしながら手を繋いで、冬の雨の中を歩いて行った。
繋いだ手から伝わる、拓海さんの体温が、とても心地よく感じた。