君と二人の201号室





「ただいま…です」



そう言って部屋に入ると、拓海さんは無言のまま電気をつける。

パチンという音が、静かな部屋に響いた。



「あの、拓海さん…?」



心配になって拓海さんに声をかけると、またもや抱きしめられる。


あまりにも急だったので、私はちょっとしたパニック状態になる。



「え、あの、拓海さん…?…その…ここ、玄関ですよ…?」



そう。ここは玄関。

お互い、靴も履いたまま。



「じゃあ、玄関じゃなければいいの?」

「ふぇ!?」



びっくりして、おかしな声が出る。



「なら早く靴脱いで」

「え、その…」



どうしよう、なんて答えよう。



「…なんて、冗談だよ」

「…え?」



なんで…。


あれ、『なんで』…?

ここは本当は、『よかった』って、安心するところなはずなのに。


なんで、こんなにも寂しいんだろう。



「…菜帆?」

「冗談じゃ、嫌です…」



私の前を行く拓海さんの洋服の裾を掴んで、私の口からはそんな言葉が出た。

やっとの思いで絞り出した声は、思っていたよりも小さかった。



「…寂しい、です…。…そんなこと、言わないでください…」



このままこの裾を離したら、拓海さんが遠くに行ってしまう気がした。

…そんなの、絶対にヤダ。遠くになんか、行かないで……。


拓海さんと、離れたくない…。



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