君と二人の201号室
*
「それで?絶望した彼氏見捨てて。ここにバイトしに来たんだ?」
「…クリスマスって、そんなに大事な日なんですか?」
「まぁ、世間一般ではね」
「そうなんですか…」
…そんな大事な日に働いてるなんて、店長も大変だなぁ…と自分のことを棚に上げて思った。
…というか、「今日は私だけ」って言ってなかったっけ。てっきり、店長もいないのかと思ったけど。
「店長は、誰か一緒にクリスマスを過ごしたい相手とか、いるんですか?」
「…まぁ、いなくはない…かな」
…何だか歯切れが悪い。聞いちゃマズかったのだろうか。
切なげに顔をしかめる店長が、いつもヘラヘラしている彼からはとても想像なんかできない、切なげで愛しげな顔をして、どこか遠くを眺めてる気がした。
「…似てるんだ」
「え?」
「菜帆ちゃんによく似てるんだ、その人」
「…そうなんですか」
いつも私をみる度、その人のことを思い出しているのだろうか。
そんなに…苦しそうに顔を歪めて。
「その人が。『クリスマスには奇跡がおきるんだよ』って言ってた。俺は…馬鹿馬鹿しいと思ったけど、でも、幸せそうに笑う彼女を見て、信じてみるのもいいかな…って思った」
クリスマスには奇跡がおきる…か。
…そんなものが起きてたら、私は……。
「…失踪したんだ、彼女。クリスマス・イブに」
「…」
迂闊に声をかけるわけにはいかない、デリケートな話だと思った。
そんな話を、何で私に…?