君と二人の201号室
「…菜帆、って呼んでもいいですか?」
「…構わないです、けど…。呼び捨てに敬語は合わないと思うし…それに年上だし……。敬語は使わないでください」
「あ、じゃあ、うん。今から帰るの?危ないから、送って行っていいかな?」
「…はい。ありがとうございます」
誰かと一緒に並んで歩くなんて、いつぶりだろう。
いつも、一人で歩いてたから。
あったかいなぁ。
「八代…さんは、えっと…私なんかのどこが好きなんですか?」
「拓海って呼んで。あと、『私なんか』はダメ。菜帆の好きなところ…うーん、一目惚れ…って言ったら、笑う?」
「笑わないですけど…。変な感じがします」
「仕事の飲み会に付き合わされて疲れてた時、フラッと寄ったいつものコンビニに、なんか可愛い…ほんわかしてて癒される…でも、眠たいはずなのに一生懸命ハキハキ接客してて、癒されると同時に、すごいなぁ…って思った」
「………っ」
褒められることに全然慣れてない私は、むずがゆいような、くすぐったいような気持ちになった。きっと私の顔は今、林檎みたく真っ赤だろう。
「赤くなってるの?可愛いね、菜帆」
「…からかわないでください」
悔しくなった私は、暗闇であまり見えないだろうけど、赤くなったであろう顔を見られないように、顔を逸らした。
「拗ねてるの?…それも可愛いから逆効果だよ」
「…もうそれ、やめてください」
「可愛い子に可愛いって言って何が悪いの?」
「私は!可愛くなんか!ないですから!」
「『なんか』禁止。言ったよね?」
「それは…すみません…」
そんなこと言われたこともなかったし、言われるなんて思ってなかった…というか、そんな言葉があるんだ…ってレベル。
今まで誰にもよく思われなかった…というと少し語弊があるけど、誰にも気に留められない存在だった。
それが、高校生になってアルバイトをするようになってから、千聖さんみたいな人たちに出会って、極貧なんて気にならないくらい充実してきた。
そんなレベルだったから、告白されるなんて考えてもみなかった。