君と二人の201号室
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「あ、ここのアパートなんです」
「アパート!?…ここ、が?」
「はい。言いたいことはなんとなくわかります」
だってここは、この辺り屈指のボロアパート。見た目は、かなりよく出来たお化け屋敷…を通り越して、ほぼ廃屋だ。
不動産屋で一番安いところを聞き、「あまりおすすめはしないよ。」と言われたけど、屋根があればどうでもよかったし、汚いところは掃除すればいいし、何ならお金が貯まるまでの仮住まいとしてでもいいと思い、ここにした。
もちろん、セキュリティなんて言葉とは無縁だけど、盗られて困るようなものは家には置かなければいいだけの話なので、特に不自由はしていない。
「菜帆は、ここに住んでるの?…ご家族は?」
「家族なんていません。一人暮らしです」
「…防犯とか、色々大丈夫?」
「……今のところは」
大丈夫ではないと思います…と答えようとしたけど、やめておいた。それも含めて、ここを選んだわけだし。
…あまりにも入居者がいないから、携帯電話を持ってない私でも契約できた。代わりに、月一回は不動産屋に行くけど。
「あ、ここが私の部屋…」
と、言いかけたところで、私の言葉は途切れた。
部屋のドアに貼ってある、貼り紙を見つけたからだ。
【来月の15日に、ここを取り壊すことが決まりました。つきましては、それまでに退去をお願いします。そよかぜ不動産 藤井】
………………噓……でしょ……?退去……?
これ以上の格安物件、見つからない……。
「菜帆、大丈夫?」
「どうしよう…」
「もしよかったら、なんだけど……」
「なんですか…?」
私は、泣きそうな顔を上げる。
「一緒に暮らさない?」
「え?」