君と二人の201号室


「最初、拓海が『好きな子と住めることになった』って言ってたときは、何事かと思ったけど…。うん、一緒に住みたくなる気持ちもわかるわ。可愛いもん」

「でしょ」

「生意気なクソ弟がよくやった…って思ったし」

「瞳、それは言い過ぎだよ。まぁでも、いい子そうでよかったよ」



…なんでこの家族の人たちは、こんなに優しくしてくれるんだろう。

私には何も返せる保証なんてないし、むしろ迷惑しかかけてないのに。

申し訳なさで消えてしまいそうだ。



「ちょ、菜帆、泣いてる!?」

「あ、すみません……。嬉しくて…」



こんなに歓迎されるなんて。

私は何で緊張してたのか、馬鹿馬鹿しくなるくらいだ。


嬉しくて涙が出るなんて、本当にあるのかな…なんて思ってたけど。

この生活が始まって、私は初めて嬉し涙を知った。

心地いい温もりが流れていくことがあることを知った。


…この人たちだけには、迷惑も心配もかけたくないな。

あったかくなった心に、私は誓う。


全部、自分で頑張らなくても大丈夫だということを知った。

それでも、私は、誰かに迷惑をかけるくらいなら、自分一人が苦しい方がずっとラクでいられると思っている。

…そんなこと言ったら、拓海さん…だけじゃなくて、ここにいる拓海さんの家族にも、由奈ちゃんや紘子ちゃんにも、千聖さんや店長にも、怒られちゃうんだろうけど。



「よしよし、いっぱい泣きな」



誰かが泣いたとき、「泣かないで」と、慰める人がいる。

けれど私は、「泣きな」って言ってくれる人の方が優しくて、大きな人だと思う。

相手の苦しさや悲しさ、寂しさ、喜びや安心感なんかを受け止められる、大きな人。それって大事なことだな…と実感する。

…こんな日が来るなんて、思ってなかった。




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