君と二人の201号室
拓海さん、女嫌いだったのに、女の人と付き合ったことあるんだ…。
「昔、一回だけ、女と付き合ったらしく。まぁ、脅されてだったらしいけど。地獄だ~って毎日のように愚痴ってた。さすがに私も可哀想になったから、黙って聞いてあげてたんだ。うん、偉いな。あの時の私」
…拓海さん、それは『付き合った』回数に入れなくてもいいと思います。
っていうか、そんなの入れないでほしいです。…嫌な子だけど、そんな人と同じカテゴリになりたくない。
「ふふ。菜帆ちゃん、ヤキモチやいてる~」
「そんなんじゃ………なくないですけど」
「くぅ~っ。可愛いなぁ、本当。拓海のヤローには勿体ないんじゃない?」
「いえ、逆です…」
拓海さんが私に釣り合わないんじゃなくて、私が拓海さんに釣り合わないんだ。
生まれ育った環境だって違うし、何よりあんなにいい人、私には勿体ない。
そんなことを考えている私を、瞳さんは不服そうに見つめる。…何か言いたげだけど、何も言ってこない。
「ま、釣り合う釣り合わないなんてどうでもいいけどさ。欲望に忠実にいた方が、後々後悔しないよ?」
「そう…ですよね…」
わかってるけど、でも、どうしても前向きに考えられないのは、一種の病気か呪いみたいなものなんじゃないだろうか。
自分でも、面倒くさい。こんな性格。治るものなら、治したい。
「菜帆ちゃん、私の昔の話をしてあげよう」
「瞳さんの昔の話、ですか…?」
「そうそう。私、最初、拓海のこと嫌いだったんだ。…今も意地悪したりするけど、別に嫌いってわけじゃないよ?で、なんでかっていうと、父さんと母さんを取られる気がしてさ。私も上に兄弟欲しかったな…って思った。近所に私より年上のお姉ちゃんがいてさ。その人が本当の妹みたいに可愛がってくれたから、拓海のこと嫌いにならないで済んだんだけどね」
「そう、なんですか…」
拓海さんが瞳さんのことを嫌ってる様子も、瞳さんが拓海さんのこと嫌ってる様子も全く見られなかったから、仲がいい姉弟なんだなって思ったけど、そんなに簡単じゃなくて、もしかしたら全く違う感じになってたかもしれないんだ。