君と二人の201号室
私は、新年を楽しみに思ったことなんて一度もない。
…むしろ、来ないでほしいと思ったこともあるくらいだ。
早く働きたくて、早く大人になりたかったけど、新しい年は来てほしくなかった。何という矛盾だろう。自分のことだけど。
こんな風に誰かとテレビを観ながら、のんびり年越しを迎えるなんて、想像してたのと全然違う。
年末年始は、朝から夜まで色んなバイトに明け暮れるものだと思ってた。…拓海さんに出会うまでは。
「菜帆ちゃん、これこれ!このグループ!私の好きなグループで、好きな歌やるの!観て!聴いて!」
「は、はい!」
気合いが一層すごくなった瞳さん。
…よっぽど好きなんだなぁ。いいな、そんなに好きなものがあるなんて。
拓海さんの家で本を何冊か読ませてもらっって、かなりのめり込むようになったけど…そんな感じなのかな。
本は好き。
ありふれた理由かもしれないけど…ちょっとだけ、夢を見られるから。
どっぷり浸っていると何もかも忘れられるような気がするし、実際、本を読んでる間だけは何もかも忘れられる。
私は変わった。
例えば…テレビの歌番組を観て涙が出るのとか。
「な、菜帆ちゃん!?…また!?大丈夫?」
「す、すびばせん…」
…涙腺、脆いな。なんでだろう。
今までは、いくらだって堪えられたのに。
「ちょっと、菜帆ちゃん。本当、どうしたの?トラウマとか?お姉さんに話してごらんよ」
「気持ちは…嬉しいんですけど…。まだ、拓海さんにも話せてないので…」
「なら、拓海が風呂上がったら、話してみ?無理に聞き出すのは違うと思うけど、もうこれ以上我慢できない!」
「はい…」
…ちゃんと、話さなきゃ。
私のことを心配してくれてる人には。