君と二人の201号室
ギュッとハグしよう
「妹と弟、どっちがいい?」
お腹が大きくなったお母さんが、幼い私に問いかける。
自分のお腹をさすりながら、見えないその下の命を愛しんでいるように見える。
…もうすっかり、目の前の私は見えてないみたいに。
「…どっちでもいい、かな。可愛いだろうし」
どっちでもいい。
だって、どっちだろうが、もうその眼に私は映らないんだろうから。
「可愛い」妹か弟の姿しか、あなた〝たち〟の眼には映ってないのだろうから。
「菜帆もお姉ちゃんになるんだよ?大変になるね~」
「ええ~、それは困るなぁ~。ほどほどにね」
もう、お姉ちゃんなんでしょ。
その証拠に、まだ5歳なのに、買い物だって一人で行ったよ?
「菜帆、そんなこと言わないでくれよ~。菜帆のこと、頼りにしてるんだからさ」
お父さんが困ったように言う。
…勝手に頼らないでほしい。
お手伝いをして褒められるのは嬉しいけど、ここまで、こうも頼られると、私は誰に甘えればいいかわからなくなりそうだ。
もう、お父さんにもお母さんにも甘えられない。
私が声を出そうとすると、何か頼み事をされる。
二人が口を開けば、「赤ちゃん」「赤ちゃん」「赤ちゃん」…。
その子は、まだ産まれてもいないんだよ?
産まれてからは仕方ないかもしれないけど、その前くらい、私のことを見てくれたっていいのに。
「寂しい」すら、言っちゃいけない。