君と二人の201号室
…いなくなればいいのに、赤ちゃんなんて。
赤ちゃんに当たるのは違う。わかってる。わかってるけど…。
赤ちゃんさえいなければ…って、何度も思った。
私は、産まれてから5年分しか愛されてないんだよ?
なのに、今お母さんのお腹にいる赤ちゃんは、これから先、きっと、何年も何年も愛されるんでしょ。
…いいな、ちょうだいよ。
キミがいない時くらい。
取らないでよ。
私のお父さんとお母さんなのに。
「いい子にしてたら、今年も菜帆のところにサンタさん来てくれるよ」
…サンタさんなんかいない。
…本当のことを既に知ってしまっている私は、お父さんのその何も考えていない発言も「モノで釣ろう」という魂胆が丸見えだった。
キライ。
産まれてくる私の兄弟も。
私を眼に映さない、お父さんとお母さんも。キライ。
…そんな風に思えたら、どれだけいいだろう。
ラクになれるのかな。
少なくとも、心の中では「イイ子」じゃなくなるから、気がラクになるのかもしれないな。
でも、嫌われたくないから。
眼に映してもらえなくても、声はかけてもらえる。
だから、嫌われないようにしなきゃ。
「サンタさん、来てくれたらいいなぁ」
「うん。じゃあ、いい子にしないとだね。菜帆は今のまま、いい子でいれば、きっとサンタさん来てくれるよ」
うそつき。
…なんて、いつからこんなに私は歪んだ性格になってしまったんだろう。
まだ…5歳なのに。
きっと、世の中の同い年の子たちは、「サンタさん」って言われたら、目をキラキラさせるんだろうな。
喜んでお手伝いするんだろうな。
…もっと、いい子にならなきゃ。