君と二人の201号室





「え…お母さんが、いなくなった…?」

「お母さんだけじゃなくて、お父さんもだよ」



小学一年生の冬。

両親が失踪したらしい。



「…そう、ですか…」

「ほら、荷物まとめて。さっさとしなさいよ。私があんたを育てるように頼まれたんだから」

「…はい。ありがとうございます、叔母さん」



…どうでもよかった。

あの人たち、いなくなったんだ…。としか思わなかった。


ただ、気になることが一つだけ。



「…頼まれたって、誰にですか?」

「…あんたの母親。姉さんだよ」

「…へぇ、あの人が…」

「『あの人』って…」



叔母さんは何か言いかけたけど、私の傷を見て何か悟ったようだ。



「…ほら、何持ってくの?手伝うから」

「…っ!だ、大丈夫です…」



あの時の恐怖が甦る。

何も出来なければ、私は『要らない子』だから。

誰かに頼るなんて、もってのほか。


…今思うと、かなり感じ悪かったのかもしれないけど、私の中にあるのは『必要とされない恐怖』だけだった。

何も感じないはずなのに、それだけはずっと残っていた。


友達だっていない。

家族だっていない。

そんな私を、育ててくれるなんて…この人は、一体どういう精神をしてるんだろう。

私がいたって、何の得もないはずなのに。


…それは、久しぶりに、私に向けられた優しさだった。

その優しさに、多分私は戸惑っていたんだと思う。





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