君と二人の201号室
*
「え…お母さんが、いなくなった…?」
「お母さんだけじゃなくて、お父さんもだよ」
小学一年生の冬。
両親が失踪したらしい。
「…そう、ですか…」
「ほら、荷物まとめて。さっさとしなさいよ。私があんたを育てるように頼まれたんだから」
「…はい。ありがとうございます、叔母さん」
…どうでもよかった。
あの人たち、いなくなったんだ…。としか思わなかった。
ただ、気になることが一つだけ。
「…頼まれたって、誰にですか?」
「…あんたの母親。姉さんだよ」
「…へぇ、あの人が…」
「『あの人』って…」
叔母さんは何か言いかけたけど、私の傷を見て何か悟ったようだ。
「…ほら、何持ってくの?手伝うから」
「…っ!だ、大丈夫です…」
あの時の恐怖が甦る。
何も出来なければ、私は『要らない子』だから。
誰かに頼るなんて、もってのほか。
…今思うと、かなり感じ悪かったのかもしれないけど、私の中にあるのは『必要とされない恐怖』だけだった。
何も感じないはずなのに、それだけはずっと残っていた。
友達だっていない。
家族だっていない。
そんな私を、育ててくれるなんて…この人は、一体どういう精神をしてるんだろう。
私がいたって、何の得もないはずなのに。
…それは、久しぶりに、私に向けられた優しさだった。
その優しさに、多分私は戸惑っていたんだと思う。