王子様は甘いのがお好き
約束の8時を迎えた。

秘書課に残っているのは、私1人だけである。

「時間だ」

私はそう呟いて椅子から腰をあげると、秘書課を後にした。

社長室に到着すると、コンコンとドアをたたいた。

「どうぞ」

中から声が聞こえたので、
「失礼します」

私は声をかけると、ドアを開けた。

「お疲れ様」

社長はそう言って両手を広げた。

「お疲れ様です」

私は返事をすると、彼の腕の中に入った。

柔軟剤か香水のようないい香りが私の躰を包み込んだ。

あっ、これエレベーターに閉じ込められた時と同じ香りだ。

そう思っていたら、社長は私の髪に顔を埋めた。

…そう言えば、今日はいつものことをされていなかった。
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