【最愛婚シリーズ】俺に堕ちろ~俺様社長の極甘な溺愛包囲網
「俺は朝が苦手だ」
「何それ? 自分が悪いんじゃない」
「妹ならそれくらいわかってるだろう。だから確信犯ということになる」
「あぁ、もうわかった、わかった! わたしが全部悪かった。これでいい?」
一日に起こる面倒なことはひとつでいい。
わたしはまだまだ続きそうな兄の説教を回避するべく、適当に返事をしてその場から逃げ出す。
「おい、なんだ。まだ話は終わってないぞ」
聞こえないふりをする。
「まさか、彼氏でもできたんじゃないだろうなっ!」
その言葉に思わず足を止めてしまう。
ぐっと胸に重い痛みが走る。そのまま振り向くこともせずに答えた。
「……そんなわけないでしょ」
自分でも思っていた以上に低い声が出た。
「そうか……だったらいいんだ。お前、まだアイツのこと――いや、いい」
兄はそれ以上話をするのをやめたのか、さっさと自分の部屋へと入っていった。
引き留めておいて、何なの?
そう思うけれど、あれ以上話が続かなくてよかった。
きっと今日は取り乱してしまって、兄に余計な心配をかけてもっとひどい目に遭いそうだ。
とりあえず……シャワーでも浴びてすっきりしよう。
ここ最近では、ふと駿也のことを思い出すことがあっても、胸の痛みはすぐに治まった。
時間が傷口を癒してくれたのだ。
だから今日だって、大丈夫。少しすればこの暴風雨のように乱れた心の中もおだやかになるはずだ。