【最愛婚シリーズ】俺に堕ちろ~俺様社長の極甘な溺愛包囲網
あれ? ちょっと顔色が悪いみたいだけど……。気のせいかな?

いつもと変わらない様子に見えたけれど、一度だけぎゅっと瞼をつむっていた。その他は本当にいつも通り。

もう一度気をつけて観察してみるけれど、取り越し苦労だったのか彼はビールのジョッキを傾けていた。

なんだ、大丈夫みたい。

彼から意識を戻すと、ちょうど目の前の会話がひと段落したので、わたしはお手洗いに行くために騒がしい座敷を出た。

トイレを済ませて洗面台で鏡を見る。全然赤くなっていない頬を見て、自分が結構アルコールに強いことを再認識した。

女の子としてはどうだろう。少しのアルコールで、頬を赤くするくらいの方が可愛げがあるだろうな。

そんなくだらないことを考えてお手洗いから出る。

ふと、座敷とは反対側にある非常階段の扉が開いているのが目に入った。

そしてその先からゴホンゴホンという咳が聞こえてきた。

誰だろう。

おせっかいかもしれないと思ったけれど、やっぱり気になってしまい近づいて覗き込む。

咳き込んでいたその男性はわたしの存在には気が付いていない。

あれって……。

「皆川くんっ、大丈夫?」

わたしの声に彼は、口元を抑えながら振り向いた。

「ああ、赤城か……ごほっ、ごほっ……」

会話が成り立たないくらいの咳が続く。非常階段の薄明りの下でもわかるくらい顔色が悪い。

すごく具合が悪そうだ。

それなのに彼はわたしを追い払うように、シッシッと手であっちへ行けと言う。

こんな状態の人を放っておけるわけない。

わたしは彼の願いを無視して、屈んでいた彼に近寄り背中に手を充ててさすった。

「帰れって言ったのに、ずいぶんおせっかいなんだな」

意地悪な言い方をするな……。でも乗りかかった船だし、おせっかいも事実だ。

「よく言われます。男の人ってこういうときに強がりますよね。

でもこんなところでヘロヘロになってる人を放っておけません」

また咳き込み始めた。無理に話をしたからだ。わたしは背中をゆっくりとさする。

効果があるかどうかはわからないけれど、何もしないでいられない。

「さっき見たとき、なんか顔色悪いと思ったんです」

ゴホゴホと咳込みながら、彼はわたしの方を見る。しばらくして咳が止まりかけると、苦しそうに顔をゆがめながら口を開いた。

「……なんでわかったんだ? 他の奴なんか気が付いてもいなかったのに」

なぜバレたのか、本人も驚いているようだった。

「ただなんとなく……だけど。野生の勘?」

「ごほっ……っ。……たっくなんだよ。せっかくだから女の第六感とか言えば、多少は色っぽいのに」
ああ、そうか。こんなところで、自分の女子力が不足しているのを思い知った。

「すみません。気の利いたことが言えなくて」

「いや、そういうところ……いいと思うけど」

「へ?」

どういう意味か考える前に、彼が立ち上がったので、わたしも立った。

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