【最愛婚シリーズ】俺に堕ちろ~俺様社長の極甘な溺愛包囲網
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はっと目を開けると、自室の天井が目に入る。
眠ってしまっていたようだ。
壁に掛かっている時計は午前五時半。
あんなことがあっても眠れるほど、駿也のことなんてどうでもいいと思っていると強がってみせても、夢の中に出てきた甘い思い出に胸が苦しくなっていた。
わたしたちがやり直すなんてこと、これから先も絶対にないのに。
「何が『もう一度俺に落ちろ』よ……」
つぶやいてみてむなしくなった。
もし仮にわたしたちふたりがやり直すと決めたとしても、周りが認めるはずがない。
代議士の息子で会社経営者。
前よりもずっとパイスペックになった彼が、どうして今更わたしに執着するのか分からない。
とにかく、もう会わなければいいだけ。簡単なことだ。
そうすれば、自分の中のこのモヤモヤした気持ちもすぐに落ち着く。
思い出は、思い出だから楽しく美しい。
なにもそれを、また傷つくかも知れない現実の世界に持ってくる必要などないのだ。
「さぁ、準備しよう」
浅い眠りだったのか、体の疲れがとれていない。
それでもシャワーを浴びてメイクをすれば、いつもの朝と変わりない。
バッグと経済新聞を持って、駅へと向かった。