いつかのラブレターを、きみにもう一度

一番会いたくなかった人

「はい、次は……姫野さん。三十五ページの四行目から訳して読んでください」

　古文の先生が、私を指名する。ゆっくりと椅子を引いて立ち上がった私は、癖で生唾を飲んでから小さく咳をした。

「あ……」

　予習してきたから、訳はわかっている。あとはそれを読めばいいだけなのに、私の顔には熱が集中してきて、嫌な汗まで滲みだす。ずれていないのに何度も眼鏡の位置を整え、ようやく小さな声を発する私。

　教科書をひたすら眺めている生徒、器用に腕で顔を隠して寝ている生徒、ノートに落書きしている生徒、みんな私なんか見ていない。けれど、声を聞かれていると感じるだけで唇は震えて何度も言い間違えてしまった。

「えー……と、はい、次の人は……」

　自分の番が終わり、私は心臓の鼓動に支配されている体を椅子に沈める。周りに聞こえないようにため息をつくと、どこかから、
「めっちゃ顔赤いし」
と、女子のクスクスと笑う声が聞こえた。

「…………」

　べつに、いじめられているわけではない。高校に入ってから一年半、目立たないように、当たり障りなく過ごしてきた。ただ、緊張しいであがり症、人前で話すことや自ら人に話しかけることが苦手なだけで、それ以外はとくに問題はないはずなんだ。