レフティ
「里香ちゃん、お待たせっ」
「ううん、全然~。お腹すいた~」
出版社勤務のこの人は、可愛い系が好みなようだから、とりあえず語尾を伸ばし気味に、ゆっくり話すことにしている。
「美味しいとこ予約してるからね」
この人が連れて行ってくれるお店は、いつもいいお店ばかり。
さすが、接待が多いだけあるなと思う。
「…でさ、ようやく少女漫画担当させてもらえることになったんだよ」
「え、すご~い。花形なんでしょ?」
「まぁ、ずっとやりたかったから嬉しいよね」
どうだ凄いだろ、という雰囲気を醸し出さないのが、この人のいいところ。
だけどもちろん、恋愛対象ではない。
帰り際、彼は私の手を握った。
「ねえ、里香ちゃん。もう気付いてると思うけど…」
― あぁ、また。
「ごめんなさい。私あなたのこと、そういう風には見ていなくて…」
私を好きだなんて、女を見る目がないなとつくづく思う。
というか、私くらいの猫かぶりを見抜けないなんて、彼のこれからを案じる。
あの夏の悲劇から早6年。
いまだに私は、あの日立てた誓いを破れずにいた。