レフティ
「はい、じゃあまずは裾よけから~。これは裾つぼまりにしておかないと、後で大変後悔しまーす」
先生はそう言ってから、右だ左だ斜め上に持ち上げろだと、いっぺんに色んなことを言った。
「え、右手が先?どっちでしたっけ?」
飲み込みの遅い私は、その先生の説明には案の定ついていけず。
「うん、平気。あってますよ~。で、斜め上に持ち上げて~」
背後に回った先生からはいい香りがして、普通ならドキドキするのだろうが、今はそれどころではなかった。
この裾よけというやつを、腰に巻くことの方が大変だ。
気を抜くと、すぼませたはずの裾が広がってしまう。
「お、桃田さん結ぶときの手逆~。左手の紐が上で、2回ひっかけてね」
「あ、すいません…」
正直どっちだって結べてればいいんじゃないの、なんて思ったが、それはルールなのだろう。
言われた通りにやり直した。
「よーし、いいですね。じゃあ次は肌襦袢です」
肌襦袢も裾よけも、本当は素肌の上でいいですよーと言われながら、昨日美沙から聞いた右前、という単語が先生の口から飛び出した。
「右手が懐に入るようにするって覚えれば、間違えないですよ~」
「はーい」
あれ、だんだんと先生の口調につられてきている。
「で、衣紋は着物でこぶし1つ分抜きますから、それよりすこーし広く開けときましょう」
こんなもんだろうか。
うなじにこぶしを当てて、なんとなくそれよりも広く開けたつもりだ。
「じゃあウエストのところに、さっき長方形に折ったタオルと腰ひものセットを巻きまーす」
「…は…い…」
― えー難しい。このままかがめって?
昔から何をやるにも要領の悪い私は、まだ着物にすら触れていないこの段階で、すでにいっぱいいっぱいであった。