レフティ
それ以上になれた関係
そして4回目の着付け教室の日、朝からずっと重い頭を引きずって、私はなんとかそこに辿り着いた。
「え、なに風邪ひいた?」
受付に立つ山辺先生は、私のマスクを見てか、目を丸くする。
今日の先生は、…何色と呼ぶのだろう、草原のような明るめの緑色の着物を纏っていた。
「や、大丈夫です、予防みたいな」
定まらない左手でなんとかペンを握りしめ、いつものように受付票に名前を記入すると、先生は今日もマンツーマンだと背中を向けながらそう言った。
「え…菊池さんお休みなんですか?」
「うん、家庭の用事だって。お母さんだもん、大変だよね〜」
先週、先生にやめろと言われるかもしれないと心配させていたから、今日会ったら謝ろうと思っていたのに。
少し残念だ。
「はい、じゃあやろっか」
いつもの和室で先生の声がして、ぱっと立ち上がったとき、少しだけ視界が揺らいだ。
だんだんと痛み出した節々に認めざるを得ない状況になっていたが、人一倍覚えの遅い私だ。
一度休んでしまったら、もうたぶん追いつけない。
「ん、もう長襦袢までは完璧だね」
「おかげさまで…」
先生の先生らしい笑顔でわずかに取り戻した元気だったが、また少しするとより一層頭が重くなった。
顔も火照っているような気がする。
「はい、じゃあ着物〜」
あの薄ピンクの色無地を先生に手渡されたとき、不意に手が少しだけ触れ合った。
先生は冷え性なんだろうか、今日も手先が氷のように冷たい。
「…桃田さん。今日やっぱ熱あるね?」
「え?…ないですよ、先生の手が冷たいだけです」
先生の神妙な面持ちに、ぱっと目を逸らした。
「いいから、早く教えてください〜私絶対時間かかっちゃいますから」
着物を持って立ち上がると、さっきよりも強く視界が回る。
「あぶなっ」
思わず瞑ってしまった目をゆっくり開くと、私は先生の腕の中にいた。
「身体あっつ…熱あんだろ」
ー なにこの少女漫画的シチュエーション?
それにしたって、山辺さんの腕の中って。
どうしてこんなに居心地がいいのだろう。