満月は密やかに
「満月、最近頻繁に遊んでいるそうじゃないか。」
アイツは心底嬉しそうに片方の口角を上げて笑う。
久しぶりに義父の顔を拝んだが、知らん顔して私はとうに見慣れた靴の紐を結び直す。
『お前もついにこちら側へ仲間入りだな。』
そう言われているようで気持ちが悪かった。
…私はお前達とは違う。
私の感情とは裏腹に、夜の街は賑やかに小さな囁きが密かに流される。
「…遠方の方でも遭遇する奴が増えたみたいだ。一体何者なんだろうな。」
「黒いフード、手掛かりが無さすぎるだろ。しかも聞いた話だと、女みたいにヒョロッとしてるらしいぜ。」
柄の悪い二人は、この後自分達が餌食になるとも知らず会話を続けている。
「いやでもさぁ…あの若葉校の頭が一夜にして病院送りになったわけだし、誰かのデマじゃないか?」
そういえば先週、どこかの高校のトップだとか騒いでたのがいたなぁ。
彼等は自ら私に好都合の狭い路地裏へと足を歩める。
それを見逃す程、私は甘くはない。
「何にしたって俺等はあの遼河さんの下についてるんだから、そんな奴、息の根を止める事なんて容易いだろ。」
ほんの一瞬で、手加減してやろうという思考は消え去った。
傍らにいた男の後頭部を目掛けて、思い切り足蹴りをかまし
音が漏れないように地面へ落下する前にキャッチする。
まだ私に火をつけた男は異変に気付かないらしい。
「へぇ…じゃあ、お手並み拝見だね?」
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