満月は密やかに
鉄の匂いを身に纏わせながら人目を避けて歩く私の瞳が捉えたのは
不良らしき三人の男だった。
不味い…ここからじゃ別の道に行くことすら出来ない。
来た道を戻るのも不自然になるし、身を潜めるのは癇に障る。
仕方がないと鷹を括った私は、フードを取って後ろで纏めていた髪をおろした。
彼等の中には遠目からでも判るくらい足取りがおぼつかない者がいたので、飲酒しているのは確かだった。
それは私にとって好都合だ。闇に紛れて返り血は隠せても匂いは誤魔化しきれない。
「勘ちゃんはデロデロになるまで飲みすぎ…。女に振られただけで大袈裟なんだよ。」
「今日はよしてやれ。明日は扱き使ってやるから、倍にして。」
一番身長が高い人の青い目が月に照らされ妖しく光るのを横目に、平然を装い通り過ぎる。
無事我が家へ着くと汗が一筋頬を伝ったので、相当焦っていたのだと知った。
家の中は静まり返っていたが、暫くすると足音が近づいてきて
音の主は私の前に立ちはだかって、動かない。
「ちょっと夜神、邪魔だから退いて…。」
「やっと帰ってきたと思ったら第一声がそれって酷くないですか。しかもまたそんな有り様で…。」
夜神は二つ違いの私の義兄だ。彼は顔は多少あいつに似ているが、性格は全く正反対で正義感に溢れていてかつ、ユーモアのある私の見る世界では異端な存在だ。
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