俺様系和服社長の家庭教師になりました


 「俺がいつでもおまえを連れて行ってやる。」
 「………それはどういう事ですか?」
 「……こういう事だ。」


 そう言うと、色はポケットから緑色に光る小さなものを取り出した。


 「冷泉様、それは………。」
 「おまえがなくした物と同じ物はなかったんだ。だから、「one sin」の今回のエメラルドシリーズで似ている物を選んだ。」

 
 冷泉は、翠の右手を優しく取り、その指輪を薬指にゆっくりとはめた。その指輪は翠のために作られたようにピッタリで、指でキラキラと輝いていた。


 「俺はおまえが好きだ。……俺のものになってくれ。」


 彼の声が、静かな部屋に響いたように翠には聞こえた。しかし、それは翠の心の中だったかもしれない。指輪を見つめていた翠の瞳は、驚きながら彼を見つめる。
 彼の表情はとても真剣やもので、翠はその顔をみてドキリとした。


 「きっと俺はおまえを沢山傷つけた。甘い言葉を囁きながら、おまえの言葉を拒絶したんだ。それなのに、おまえが誰かのものになりそうだと知った時に激しく嫉妬した。………あんな言葉を言ったのに、気づくのが遅すぎた。けど、おまえの事が諦められないんだ。」
 「冷泉様……でも、待ってください。冷泉様の憧れていて好きな人は………。」

 
 翠は、信じられないぐらいの幸福に包まれながら、そんな事を言ってしまう。あんなにも、彼が大切にしていた人は、どうしたのだろうと。


 「それはおまえだよ、………エメル。」
 

 その呼び名を聞いた瞬間。
 翠は久しぶりに呼ばれたその呼び名に懐かしさを覚えながらも、とても驚いてしまった。


 「どうして、冷泉様がその呼び名を………!?」
 「それは、話すと長くなる。だけど、俺が探していたのは、たぶんおまえなんだ。」
 「……どういう事ですか?教えてください!」


 翠は、体を色に近づけて、そう問い詰めた。
 けれども、彼は熱をもった瞳で、翠を見つめており答えてはくれない。
 色は大切な壊れやすい宝石に触れるかのように、翠の顔を右手で包み込んだ。そして、愛でるように翠の瞳を見ながら言った。


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