俺様系和服社長の家庭教師になりました
「冷泉様、ありがとうございます。」
「…俺が決めた事だ。」
冷たく言い捨て、視線を中庭に逸らした。
色が照れ隠しをする時は、こうやって視線を外すという事を翠は知っていたので、翠も隠れて嬉しく笑ったのだった。
「色社長。よろしいでしょうか?」
その時だった。
ドアの外から、いつもの仲居さんとは違う女性の声が聞こえた。いつもは食事以外では誰からも声を掛けられないため、翠は驚き身を固めてしまった。
それ気づいたのか、色は小声で「俺の秘書だ。」と翠に教えてくれたので、翠は少しだけ安心をして力を抜いた。
「入れ。」
「失礼致します。」
ドアを開けて入ってきたのは、長い黒髪か特徴的なとてもスタイルが良い綺麗な女性だった。足が長いからか、パンツスーツを綺麗に着こなしており、「仕事が出来る女性」の見本のような人だった。
くっきりとした目で翠をちらりと見た後、「お話し中失礼致します。」と挨拶をした。
「用件は。」
「それは…。」
翠をもう一度見て、ここで話してもいいのか、という雰囲気を伝えようとしていた。彼女の視線で翠は、退席しようと腰をあげようとするが、翠の手を色が掴み、それを拒否した。
「……冷泉様?」
「いい話せ。」
「かしこまりました。先ほどの取引の件で、御相手からさっそく連絡がありました。」
「わかった。そして、神崎。これは急ぎの件ではない。」
少し強い口調でそう言うと、それだけで色の言葉の意味を理解したのが、神崎と呼ばれた女性は、一瞬悔しそうな顔をした。それの瞬間を、翠は見てしまった。すぐに、「すみませんでした。失礼します。」と言って、部屋を出ていく。
「悪かったな。」
「いえ!私も話をしてしまったので。少し長くなりましたよね。もう、帰りましょうか。」
「デザートの甘夏のゼリーはいいのか?」
「あ、食べたいです!」
そう言って、自分と色の分の2つのゼリーを堪能した頃には、先ほどの出来事を気にする事も忘れ、その日の2人の時間を終えたのだった。