俺様系和服社長の家庭教師になりました

 「色社長は普段とてもお忙しい方なんです。家庭教師の件は、どうしてもということでその時間は空けるようにしていますが、休んだ分の仕事は溜まっていきます。そのため、この時間が終わった後も会社に戻り、遅くまで仕事をされております。」
 「ぇ…………。」
 「最近では、疲れがピークのようで顔色も悪く心配しておりました。一葉さんはお気づきになりませんでしたか?」
 「それは、、、。」


 神崎の話しに驚きながらも、自分の愚かな考えに、後悔をしていた。
 よく考えればわかる事だ。彼は大手企業の社長だ。忙しいのも、知っていたつもりだった。

 そんな彼が週5も時間を作っているのは、大変なのに気づけなかった。自分が彼に会いたい、側にいたい、そんな自分だけの気持ちを優先してしまったのに、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
 大好きな人の体調を心配しないなんて………。と、自分に対して苛立ってしまう。

 神崎は、再度ため息をついて、「わかっていただけたようですね。」と小さな声で呟いたのが聞こえた。 
 秘書として、社長の事を心配するのは仕事かもしれない。けれど、神崎は気づいて自分が気づかなかった事に、翠は悲しくなってしまった。


 「色社長のためにも、今後の家庭教師を考えていいただきたいです。お願いします。」
 「すみません、でした……。」


 泣きそうになるのを堪えながら、神崎に頭を下げた。
 でも、1番に謝りたいのは彼にだ。
 それでも、頭の中では「やめたくない。」「彼に会えなくなるのはイヤだ。」という事ばかりで、そんな自分が更に嫌いになっていた。


 



 神崎と話をしていたため、約束の時間に遅れてしまった。
 また「遅い。」と言われてしまうかな、と普段だったらそれさえも嬉しく思ってしまう。が、今日は会うのが怖かった。

 彼にどう話そう。体調は大丈夫なのかも心配だったし、気づかなかった事を謝りたかった。
 そして、「終わりにしてください。」と言わなければならないのか、と迷った。翠はやめたくないけれど、色のためを考えるとやめた方がいいのだと思う。けれども………と、自分の気持ちをどうしても優先してしまいそうになる。


 彼はどんな反応をするだろうか?怒ってしまうだろうか?それとも、仕方がないというか、予想がつかなかった。


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