私と君と夢物語。
優斗と2人で佇んでいるだけで沈黙が続く。
私はおもむろに制服のジャケットのポケットの中にあった飴玉を取り出す。
「いる?」
「ん、」
優斗の差し出してきた手に飴玉を落とす。
不意にさっきの翔磨を思い出す。
忘れかけていた手を握られた感覚が蘇る。右手を見つめる。冷たく白くなっている。
「どうしたん?なんか今日莉桜ぼーっとしてる。」
「そう?いつも通りだよ、」
へへっと笑って見せる。
「なんかあったら聞くけど?」
「大丈夫。本当に、」
こういう時優しい優斗。人の変化によく気付いてくれて、
でも、こんな優斗にでも言えない。
恋わずらいだなんて、絶対に言えない。
今までずっと相談に乗ってきてもらった。今までは言えたのに、今回は言えない。なんだか分からないけど。
「んじゃーそろそろ帰るか~!」
手すりにかけていた手を離すとぐーんと伸びをした。
「うん。」
一緒に歩き出す。
「チョコ渡す相手いないからって気を落とすなよ、俺でもいいんだよ?」
「あー、優斗にあげるぐらいなら自分で食べる~」
「えー!俺ほどいい男居ないよ?」
「もっといい人沢山いると思う。」
「お前~!」
こーやって昔から冗談言い合って笑いあって走った。
今日もいつもみたいに走る。
あー、いつの間に優斗こんなに大きくなったの?
身長も背中も、男らしくなって、かっこいいそんなこと思ってしまった。
制服で男女で夜の街を走るって青春っぽい。
彼氏でもない。ただの友達、幼なじみだけど。
「着いた~!」
ハァハァと2人で膝に手をつき息を整える。
「んじゃ、莉桜じゃあな!」
「うん!また明日!」
ぱっと私に笑顔で手を振った優斗は向かいの家へ帰って行った。