私と君と夢物語。
家のドアを開ける。腕時計は6:50を過ぎていた。
「ねーちゃん!」
妹の声を聞くと、今までの疲れがどっとでた。
「邪魔。」
そう言い放って抱きついてくる妹を引き剥がしてリビングへ急ぐ。
鞄を投げ捨て食卓につく。
用意されていた夕食は冷たくなっていた。
ご飯を電子レンジにかける。
「どこ行ってたの。」
電子レンジの前に立つ私の体は固まった。
お母さんの声はいつもより少し低い。機嫌が悪い証拠だ。
「優斗と一緒に帰ってたの、」
今までも今日のように少し帰りが遅くなることなんてよくあることだ。
なぜ今日だけ。こんなにイライラしているのだろう。
妹が何かしたのか、でも仮にそうなら妹は部屋にこもってなかなか出てこないはずだ。
原因は私なのは確かだ。私には分からないけど。
「あんた、ピアノのレッスンは?」
ため息混じりに言った。
自分の血が引けるのを感じた。「忘れてた。」そんな言葉も出なかった。
お母さんの呆れた目が鋭く私に刺さる。
何かを忘れているような気がしたのはこのせいだったんだ。
ようやく放課後からの心の詰まりが取れてスッキリもしたが、そんなことを考える自分に呆れる。
「あ、」
長年やっていたピアノ。一度だって休んだことなんてなかった。
「先生に電話かけなさい。」
「はい、」
ポケットから取り出したスマホは私の慣れた手つきによってすぐに画面には先生の電話番号が表示された。
私は母親の操り人形のように発信ボタンを押した。
「もしもし~」
いつもの明るい先生の声が聞こえる。
「あ、み、三神です。」
「あ~!莉桜ちゃん!今日どーしたの?」
「ご、ごめんなさい。忘れてて。」
電子レンジの出来上がりのピーピーという音が鳴り響く。
心が追いつかないまま口だけが、言葉だけが、出てくる。
「んー、どうする?今週の土曜日開いてる?」
「あー、はい、開いてます。」
「んじゃ、土曜日の朝11:00からレッスン入れようか?」
「お願いします。」
「忘れないでね~!」
「はい。」
私がそう言うとプツっと電話が切れた。
先生がフレンドリーで明るくて優しい人で良かったと心から思った。
自分が憎い。ピアノのレッスンを忘れるなんて、散々先生にも迷惑かけてきたのに。
そんなこと思う中でも心のどこかで翔磨を想っている。
そんな自分も嫌になる。なに翔磨なんかにデレてんだよ。
電子レンジからご飯を取り出し再び食卓につく。