私と君と夢物語。
お風呂から上がり、パジャマに着替え自分の部屋に入ってベッドに腰をかける。
また呼び出しコールが鳴る。また楓だ。今回はちゃんとでてあげた。
「ねー!莉桜ー!」
付けると早々デカい声で叫ぶなよ、耳が痛い。
「なんだよー、うるっさいなー」
ドサッとベッドに横たわる。
「ってか今日ピアノは?」
小さい頃から一緒にいるせいで私のほとんどのスケジュールは楓の頭の中に入ってある。
いざって時に便利だ。
なに人を自分のスケジュール帳として使ってるんだよ。
「忘れてて行ってない。」
「あーね、なんかごめんね。」
「いいよいいよ、私がぼけーっとしながら帰ってただけだからさ?」
私は誤魔化すようにふははっと笑った。
「途中で優斗にも会ったし、2人でのろのろ帰ってたし。」
ふふふっという楓の笑い声がスマホ越しに聞こえる。
良かった。笑ってくれて。こーやってまた私は笑いで誤魔化す。
「でねー!大貴がねー!」
私はうん、うんと曖昧に返事をする。
私のまた悪いところ。自分の話じゃなかったら興味をあんま持たずに返事も曖昧。
最低だよね、人には聞いてもらってるくせに、自分は聞かないって。笑えてきちゃう。
「莉桜~?聞いてる?」
「あー聞いてる。聞いてる。」
「あっ!ちょっと待って!」
楓じゃそう言うと、バタバタと雑音をたてた。そして、静かになった。
今だと思って歯磨きをしに一階におりた。
歯磨きをしながら目の前の鏡に映る自分の顔を見る。
眠そうな顔。目をパチリと開けてみる。奥二重なのが憎い。
綺麗な楓みたいな二重だったらよかったのに。
「昭和顔。」
私は自分にそう吐き捨て口をゆすいだ。
眠い目をこすりながら水の入ったコップを持ち、階段を上り部屋に入る。
ベッドに置き去りにされたスマホからは楓がひたすら私を呼ぶ声が聞こえていた。
「莉桜?寝た?莉桜ー!」
「はいはい」
「なにしてたのー?」
「歯磨きー」
「もーう!」
楓の膨れっ面が目に浮かぶ。
「ごめんー」
どうせ楓は膨れっ面しても可愛いに決まってる。
私なんかがしたらただのブス。
スマホを握り、ベランダに出る。
冷たい風が睡魔に乗っ取られそうな私の体を撫でる。
澄んだ空。星が綺麗。月も綺麗。
部屋に入る。机に置いたコップを手に取り水を口に含む。
「ってか、翔磨、莉桜のこと好きなんじゃない?」
「ん゛!?」
驚きの余り、水を吹きそうになった。
吹いたら吹いたで自分で掃除しないといけないのは重々承知なので耐えたら、
「どーかした?」
「今水飲んでたんだけど、、鼻に入った。いった~。」
あはははと楓は大爆笑。
「なんか翔磨、莉桜と話すの楽しそうだし、」
「それだけ?」
「それに!それにね?将人とかになんか翔磨莉桜でいじられてなかった?」
確かに、そのシーンは私も目撃した。
なんか、翔磨は照れてるみたいな。そんな感じ、
でも、
「そんないい話あるかな~?私に限って~。」
仮に “翔磨が私のこと好き!” だなんて本当びっくりしちゃう。
そんなうまい話ある訳ない。私に限って。それじゃ、夢みたいじゃん!
心のどこかで本当であってほしいと願ってるのは秘密にしておこう。
時計の針は23:00をまわっていた。
眠くなってきた。
欠伸が出る。
ほら、また。
返事もさっき以上に曖昧になっていく。
スマホの画面をベッドに横たわり布団を被って眺める。
ネッ友、楓、しほ。通知だけが増えていく。
ずっと既読スルーにも関わらず懲りずに優斗から一方的にくる。
『莉桜?今日の宿題なに?』『終わった?』『今日の小テストめっちゃよかった!』『りおは?』『ねー!』『りお?』
本当にうるさい。だからただ一つ。
『うるさい』
とだけ返すと、既読がすぐつき返信は来なかった。
素直じゃん。
「莉桜ー?聞いてる?」
「聞いてるよ~」
欠伸をすると涙が一滴零れ落ちた。
布団が暖まる。
まぶたがどんどん重くなって楓の声が遠のいた。