私と君と夢物語。

2人きりになってもたじたじの楓と大貴。

少し話しているようにも見えるけど、2人のキョリは空いたまんま。



付き合ってるくせに。




私と翔磨はそれを柱にかくれて見つめる。

背の高い翔磨はチビな私の後ろから覗き込んでいる。


「あ、えーっと」

翔磨が口を開く。

「ん?」

私は翔磨の方に向く。



「あの、なんて呼べばいいかな?」


さっきのチャラい感じとは違い謙虚というか、しっかりした感じで言う。


「あ~、りおでいいよ。呼び捨てで。」



私はずっと人からりおちゃん、って呼ばれてて男友達に呼び捨てにされるのに憧れてきた。



「ん。りおって呼ぶわ。」




さりげなくりおって呼んでくれる。




優しいかよ。




「あー、俺のことは呼び捨てでいいから、大貴のこともな。」

「うん!分かった!ありがとう!」



私がふふって笑うと翔磨も目を合わせて笑ってくれた。


お兄ちゃんみたい。


「お、あの2人ちょっと近付いたか?」


私たちの目線は楓と大貴へ向いた。


沢山の学生やサラリーマンが行き交う中私たちは一組のできたてホヤホヤの初々しいカップルを柱の陰から眺める。


周りからみれば私たちもカップルに見えてたり?



「あ、そーいや将人は?」

「なんか今日用事あるって先に帰ったよ。」

「あ~ね。」


元気にしてるかなって、少し気になったり。




大貴と楓は限界を迎えたのか2人で私と翔磨に手招きした。



「しゃーないか、行ったるか。」

腰に手を当て言い、一息ついて歩き出した翔磨。


その2、3歩後ろを歩く私。


細身で長身。




楓の近くに寄るとすかさず腕を掴まれた。


お前ふざけんなと言わんばかりに私の腕はたたかれる。



「痛いからさー。」

「りおのせいでしょ?!」

「2人の時間が欲しそうだったからさ~?非リアは邪魔でしょ?」

うんうんと軽く頷く翔磨。

翔磨を睨む大貴。

「りおは居てよ!」

「なんでだよ~。」


駅の出入り口からさあっと冷たい風が吹き抜ける。


「あ~!さむっ!」

私は体をふるわせた。


翔磨はおもむろにポケットからカイロを取り出した。



いいな。カイロ。私今日忘れちゃったからな。



「いいな~カイロ。貸して?」

「ん?ちょっと冷めてるけどいい?」


貸してもらえないつもりで言ったはずなのに、意外な答えで少しぽかんとする私に翔磨はカイロを手渡した。




確かに生ぬるいカイロは私には翔磨の優しさでほんのり暖かさが増した。




カイロを揉みながらカップルと翔磨を眺めていた。



久しぶりの優しさを噛み締めた。





改めて、なんで中学受験なんてしたんだろうと思う。


こんな人と同じ学校なんて、もしかしたら同じクラスだったかもしれないのに。

こんな人と同じクラスとか絶対楽しいよね。

もっと早く出会っていたかった。
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