私と君と夢物語。
時計を見ればもう6時10分。
「楓、帰らないの?」
「え、何時?」
「もう……」
楓に腕時計時計を見せた。
「やばっ!帰らないと怒られる!」
楓は私の腕を掴みぐいっと引っ張った。
ああ!カイロ返さなきゃ!
「ちょ、ごめん楓!」
すっと立ち止まった楓。
「あ~、カイロありがとうございました!」
私はぺこりと頭を下げ借りたカイロを手渡した。
それが終わるとすぐさま楓が私を引っ張った。
「じゃあね!」
私がそう言うと、楓は忘れてたのか少しスピードを緩めて、
「またね~!」
と彼らに手を振った。私も手を振る。
翔磨と目が合った。
ふわっと笑って手を振り返してくれたことに嬉しさを感じて私も笑みをこぼした。
冷たい風が吹く外へ飛び出した私たち。
「ひいい、さむー!」
腕を掴まれた状態で少しスピードを緩めた。
つられて楓もスピードが緩まるが、すぐまたもとのスピードに戻った。
そんなに親に怒られるのが怖いの?
私の腕をとうとう離した楓。
おいていかれそうになる私。
小走りでついて行く。
あっという間にいつも楓と別れる交差点に着いた。
「じゃあね!」
笑顔で手を振って帰ろうとする楓を引き止めれず、私もじゃあねと手を振ってしまった。
走る楓の後ろ姿を見送る。
運動神経はそこまで良くない楓も火事場の馬鹿力とでも言うようにあっという間に暗闇に消えていった。
「ふぅ」
息を整え冷たい夜の街を1人で歩く。
あれが楓の彼氏か~。
翔磨って優しかったな~。
どちらかというと私のタイプは翔磨かな~?
私を呼び捨てしてくれる男子なんて優斗ぐらいしか居ないよ?
優斗名前に「優」って漢字入ってるのに全然優しくないし?
まあなんだかんだ言って好きなんだけどね?
あ、勿論友達として、幼なじみとして。
多分お互い恋愛関係になることはないだろう。
誰も居ない歩道橋を登る。
6時半前。
寂しい歩道橋を私のローファーがコツコツと音を立てる。
寒いなぁって。両手をこすりあわせる。
はあっと吐いた白い吐息は空にふわっと消えていった。
階段を下りる。あと少しで家だ。
静かな住宅街。
誰かに付けられてたら?
通り魔とか?
そんな嫌な予感という妄想が広がる。
「こわ~。」
小さく呟き後ろを振り返った。
誰も居ない道路に葉の落ちた木がポツンとあっただけだった。
それでもなんだか怖くなって。いつもそんなことないのに。
早足で家へ急いだ。
ガチャンと家のドアを開けた。
はあ無事着いた。
夕食のいい匂い。
「ただいま。」