私と君と夢物語。
私がいやいやしていたせいで少し約束の時間に遅れてしまった。
「莉桜なにしてんのよ!」
「ごめんて、」
そんなこと言ってるくせに楓は楓で大貴の前では照れて私の後ろに隠れたり腕を放さない。
「ねぇ、楓?離して?血止まりそう。」
こんなこと言ったって効くはずがない。この一連のやりとりは毎回のこと。
そのたんびに大貴も困った顔をしている。
「絶対離さん!」
「ほら、彼氏さんに渡すものあるでしょ?」
私がそう言うと軽く大貴を茶化す翔磨と将人。
「莉桜渡して?」
私を含め大貴も翔磨も将人も困った顔をした。無理やり紙袋を渡された。
明らかに大貴のものと、翔磨と将人のもある。流石に私にだって常識ぐらいある。
「ねぇ、やっぱ楓から渡しな?」
そう言って紙袋を自分の後ろにへばりついている楓に返す。
「んじゃ、他のは莉桜が渡して?」
この際しょうがない。しぶしぶ私はその条件を受け入れた。
楓は私の腕を離して照れながらも少しずつ大貴に歩み寄る。
痛かった腕が解放された私はふっと息をついた。
楓は紙袋から手作りのチョコを大貴に渡した。照れる二人をほのぼのと見守る彼氏彼女の居ない私と他二人。
渡すと高速で私に駆け寄り、またくっついてきた。
「莉桜!後は任せた!」
紙袋を渡され市販のお菓子が小さくて可愛らしい小袋に入れられた翔磨と将人用のを取り出した。
「あーみての通り楓さんからのです。」
渡すときに少しだけ翔磨と手が触れた気がした。ふわっと笑った将人。なぜか照れくさそうな翔磨。
キンキンに冷えかじかんだ手では触れたかどうかよくわからない。
「なぁ大貴さん、彼女さんとぎゅーってしたいよな?」
翔磨が唐突に言った。それにあわせ私と将人も一緒になって茶化す。
バシバシとなに言ってんだよと言わんばかりに私を叩いてくる楓。照れくさそうに翔磨達を軽く睨む大貴。
ノリと流れで二人がバグする雰囲気になり……。
翔磨と私で説得しても腕を離すどころか抱きついてきた楓。
「相手違うよ?」
私は少し笑いながら言ってみた。そんなこと楓に通じる訳もなく。
今度は翔磨が
「莉桜を離しな?」
優しい声だった。どうしてもその声に、莉桜と呼び捨てしてくれる翔磨にドキドキしてしまう。
楓のことは楓ちゃんとかって言うのに、私だけは呼び捨て。
学校では誰かを呼び捨てにしているかもしれないけど私には関係ない。
ここでは女の子は二人だけ
それに一人は彼氏持ち。その子はちゃん付け
私のこと好きなの?翔磨。
「このままじゃだめ?」
楓さん、そのセリフ彼氏と手とか繋いだときに言うやつでしょ?
するとそのまま大貴が寄ってきた。このままバグするつもり!?
「待ってよ!待って!」
流石に私が真ん中はマズいでしょ。
すると目の前にいた翔磨が私に手を差し伸べてきた。
「へ?」
私は少し驚いて変な声がでてしまった。
目の前の私に手を差し伸べている翔磨はどこかのアイドルというか、大袈裟かもしれないけど、王子様に見えた。
少し時が止まったような、この世界二人だけ、みたいなそんな感情が沸いてきた。
テレパシーなんて使えないけどなんとなく翔磨が私に伝えたいことが分かった。
翔磨の手に自分の手を重ねる。
私の手より少し大きくて暖かい手に包まれた。
いつぶりだろう。男の子と手を繋いだのは。彼氏と別れて以来繋いでいない。かれこれ半年は経っただろう。
少しの間があってから翔磨が口を開いた。
「これで俺らペアだから。」
彼氏彼女のカップル的関係じゃない。友達とも言い難い。いや、でも友達だからこその?
『ペア』
その独特な表現法。
そんなちょこっと口にしたことを変な風に沢山考えてしまう私。
腕を拘束されていた私を少し可哀想だと思って出た言葉なのかもしれない。大袈裟に捉えちゃいけない。
翔磨だって好きな女の子だっているかもしれない。私となんてまだあって数回から十数回。
まず私のこと好きだなんてないだろう。