そして、冬がやって来る。
「今、何してんの。ここで。もう暗いじゃん。」
「…………笑わないでよ?」
「?あぁ。」
「……散歩してたら、迷子になった。」
やっぱり、あんまり親しくない人に話すのは抵抗があるな…。親しい人なら、笑い話で済むんだろうけど。
「…どこまで行きてぇの?」
「公園の、駐輪場まで……。」
「ふぅん…。着いてくれば。」
「送ってくれるの…?」
「迷惑なら断れば。」
「ううん、ありがとう。」
…ぶっきらぼうだけど、優しい人なのかな……。
剣道教室に行ってた時は、顔と名前を知ってるくらいで、全然話したことなかったから。少しだけ、彼のことを知った気分だ。
私はちょっとだけ浮かれながら、歩幅が少し大きい彼の後を、一生懸命着いて行った。
*
「そもそも何しに来たの?今日。」
「モミジ、赤くなってるかなぁ、って思って……。」
「そう。」
やっぱり、彼との会話は続かない。
ほぼ初対面だからだろうけど。
薄暗い秋の公園に、たくさんの人がいる。
マラソンをしている人。
犬の散歩をしてる人。
学校帰りの高校生。
……そして、私たち。
他の人たちからしたら、気にも留められない存在なんだろうけど、私たちの世界…ぎこちない、これっきりかもしれない世界は、確かにここにある。
忘れていて、話したこともなかったような存在の人と、話して、しかも一緒に歩いてる。…何だか不思議だ。偶然って恐ろしい。