そして、冬がやって来る。


「今、何してんの。ここで。もう暗いじゃん。」

「…………笑わないでよ?」

「?あぁ。」

「……散歩してたら、迷子になった。」



やっぱり、あんまり親しくない人に話すのは抵抗があるな…。親しい人なら、笑い話で済むんだろうけど。



「…どこまで行きてぇの?」

「公園の、駐輪場まで……。」

「ふぅん…。着いてくれば。」

「送ってくれるの…?」

「迷惑なら断れば。」

「ううん、ありがとう。」



…ぶっきらぼうだけど、優しい人なのかな……。


剣道教室に行ってた時は、顔と名前を知ってるくらいで、全然話したことなかったから。少しだけ、彼のことを知った気分だ。


私はちょっとだけ浮かれながら、歩幅が少し大きい彼の後を、一生懸命着いて行った。







「そもそも何しに来たの?今日。」

「モミジ、赤くなってるかなぁ、って思って……。」

「そう。」



やっぱり、彼との会話は続かない。

ほぼ初対面だからだろうけど。


薄暗い秋の公園に、たくさんの人がいる。


マラソンをしている人。

犬の散歩をしてる人。

学校帰りの高校生。


……そして、私たち。


他の人たちからしたら、気にも留められない存在なんだろうけど、私たちの世界…ぎこちない、これっきりかもしれない世界は、確かにここにある。

忘れていて、話したこともなかったような存在の人と、話して、しかも一緒に歩いてる。…何だか不思議だ。偶然って恐ろしい。




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