そして、冬がやって来る。
「あーあ、腹減った。」
そう彼が呟いたのを聞いて、私は腕時計に目を落とす。
…もう17時。ほぼ真っ暗だ。
「お腹空いたなら、飴あるけど……いる?」
そんなもの、お腹の足しになんかならないだろうけど、この時間になると寂しくなってくる口の中を紛らわすのには丁度いいかもしれない。
私も、結構お腹が空いたりするので、重いリュックサックの中身の何パーセントかは飴を入れるために使われていたりする。
「もらう。」
彼が短くそう答えたので、私はリュックサックから、飴が入っているポーチを取り出した。
「はい。いっぱいあるから、何個か取っても大丈夫。好きなの選んで。」
「大阪のおばちゃんかよ。」
そう言って、彼は笑った。
「なんだ、笑った方がいいじゃん。」
「は?」
「…あ。」
つい、口に出てたか……。
「何?」
「…さっきからブスくれてるから、嫌われてるのかな…と思ってたけど、私の前でも笑えるんだ…って思って。」
「…そんな顔してた?」
「してたしてた。」
私がそう言うと、彼は気まずそうに私から目を逸らした。
…ふふ、可愛いとこもあるじゃん。眉間に皺寄ってるより、絶対いいじゃん。
「安心しろ。…嫌っては、ねぇし。」
「…人には好き嫌いがあるから、別にそこはどうでもよかったけど……。まぁ、嫌いって言われるよりはいっか。」
「変わった奴。あ、飴ありがとう。」
「どういたしまして。」
そう言いながらポーチを受け取り、私もポーチから飴を一つ取り出し、個包装を開けて、口の中に放り込んだ。…甘い。
それから、ポーチをリュックサックにしまった。